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名古屋高等裁判所 昭和38年(ネ)204号 判決

控訴人 中村卯助 外一名

被控訴人 常滑タクシーこと渡辺治郎吉 破産管財人山口源一承継人 渡辺治郎吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人中村卯助の予備的請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人中村卯助に対し金五二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年九月一九日より完済まで年六分の割合による金員を支払え。被控訴人は控訴人平松鎬光に対し金三七、五〇〇円およびこれに対する昭和三三年七月一日より完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに予備的に「被控訴人は控訴人中村卯助に対し金五二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年九月一九日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、立証関係は次に付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、

(一)  控訴人中村卯助は本件約束手形の原因関係たる貸金債権五二〇、〇〇〇円およびこれに対する手形呈示による支払催告の日たる昭和三三年九月一九日以降民法所定の年五分の割合による遅延損害金を予備的に請求する。

(二)  本件手形の呈示を受けた当該銀行は他の関連手形の符箋にあるような支払期日未記入の旨の記載をしていないところからしても支払期日の補充は呈示前になされたものである。

(三)  前記予備的請求にかかる貸金は名義料の性質はなく、また、商事債権でもなく、友人間の民事債権であるから一〇年の消滅時効によるものであり被控訴人の抗弁は否認すると述べた。

被控訴代理人は、

控訴代理人の予備的請求にかかる貸金の点は否認する。本件手形の原因関係は控訴人が被控訴人に控訴人の代表する愛知交通株式会社の名義を自動車運送事業のため利用させて、その対償として取得を約定した金員であつて、道路運送法(二六条)の公益規定に違反する無効の契約と不可分な名義料の給付は不法原因にもとずくものであり控訴人としてその給付の請求はできない筋合である。かりに然らずとするも、昭和三八年七月二〇日付準備書面により貸金の請求をしたのであるから、弁済期たる昭和三二年九月一九日より商事債権の消滅時効五年を経過してすでに時効により消滅しているものであるから右時効の援用をなすと述べた。

証拠〈省略〉

理由

控訴人中村卯助の被控訴人に対する約束手形金の請求、ならびに控訴人平松鎬光の自動車修理代金請求については、当裁判所は原判決理由記載と同一の理由によりこれをいずれも失当と認めるから、右原判決の記載を引用する。

なお、控訴代理人は甲第二号証の三の約束手形に「支払期日記入もれ」の符箋があることを援用して本件手形にはそのような銀行の符箋がないから本件手形の呈示当時支払期日の補充がすでになされていたと主張するが、本件記載に徴すると、昭和三四年二月七日付本件訴状、成立に争いない乙第二号証の一ないし四にみられる昭和三三年一一月八日の破産債権届出書にも本件手形は支払期日白地のままであるとされているのであり、原審第一二回、一三回口頭弁論前後の事情に照しても前記認定(原判決引用)のように昭和三七年六月二一日ごろに至つて補充せられたとみるべく、右白地のままで本件訴訟を提起しても時効中断の効力がないことは明白であるから、控訴代理人の主張は採用できない。

控訴人中村卯助の予備的請求について判断するに、本件約束手形の存在という点以外には同控訴人が具体的に被控訴人に対し金員を貸与したような消費貸借事実を肯認する資料はなく、原審における同控訴人本人尋問の結果中右に関する部分は信用できないから、排斥のほかはない。もつとも、原審および当審における被控訴本人尋問の結果によれば本件約束手形の原因関係は控訴人中村卯助の代表する訴外愛知交通株式会社が被控訴人渡辺にタクシーの名義貸をなしたことによりその名義料として徴する金員を便宜上右控訴人宛に約束手形により振出させたのであることが認められるが、右は道路運送法第三六条にいう自動車運送事業者がその名義を他人に自動車運送事業のため利用させてはならない旨の禁止規定に違反するもので(同法第一二八条の罰則あり)同法第一条の趣旨等からして、かかる契約は公序良俗に反し民法第九〇条により無効というべくこれにもとずく、名義料の授受は右契約と不可分のものであるから、これを本件手形の原因関係として請求することは許容することができない。

されば、控訴人らの本訴請求はすべて失当であるから、これと同旨の原判決を相当として本件控訴ならびに当審においてなした控訴人中村の予備的請求をいずれも棄却すべく民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本収二 西川力一 渡辺門偉男)

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